2018.01.01

 カワユエンレイソウという弟子屈の地名の付いた植物を紹介します。

 その名が知られるようになったのは1996年のことで、それまでは固有の名前はありませんでした。その地域に限定的に生育する植物を固有種といいますが、今のところカワユエンレイソウは川湯を中心に生育することが確認されています。誕生した要因は、硫黄山の噴気の影響、酸性土壌の影響、地熱によるもの、遺伝的なものなど諸説ありますが、定かなことは分かっていません。

 カワユエンレイソウは春の風が心地よく感じる季節に、広葉樹が葉を広げる前の林床(森林の地表面)で花を咲かせます。種から花をつけるまで10年くらいの年月を要し、花をつけてから数十年をかけて茎を増やしていきます。森にはそれぞれの香りがあり、それは樹木や土・菌類などが発するものですが、不思議とエンレイソウの花が咲く森にはやわらかい香りが漂います。

 カワユエンレイソウは川湯を中心に多くの群落を見ることができ、一番の花の見頃は例年5月下旬です。弟子屈では、他にオオバナノエンレイソウ・ミヤマエンレイソウなどが見られ、雄しべの花粉を入れる袋状の葯(やく)の大きさなどで見分けることができます。このように群落と種類の多さから、川湯はエンレイソウの楽園といえます。

 草木は一度根付くと、一生その場所で光合成をして自ら養分を補い、自立的に何十年も過ごし、子孫を残します。エンレイソウはそよ風にゆらぐような姿をしていますが、そのゆるぎない生き方には生命の力強さを感じます。

※川湯ビジターセンターでは、カワユエンレイソウの標本を展示して、見分け方などを案内しています。

てしかが郷土研究会(藤江)